社交不安改善コラム

社交不安症コラム⑪選択的知覚・選択的注意の対処法を解説

こんにちは、社交不安症専門カウンセラーの川島達史です。この記事では、社交不安症について基礎から解説します。全体のシリーズの目次としては以下の通りです。

①基礎編   ②心理編  ③身体編  ④スキル編  ⑤環境編  ⑥哲学編

今回のテーマは①基礎編の「選択的知覚・選択的注意の対処法」です。 社交不安症には様々な症状が出たり、関連する精神感があります。今回は全体として理解していく回となります。なお、当コラムは動画でも解説しています。コラムの補助としてご活用ください。

選択的知覚・の特徴と事例

今回は、社交不安を抱える方の思考のクセ「選択的知覚」について解説していきます。

選択的知覚とは

選択的知覚とは、不安に関連するネガティブな情報ばかりに注目し、そればかりを集めてしまう心の傾向です。

人間関係には良い面も悪い面もあるものですが、選択的知覚が強い方は、ポジティブな側面にばかり目を向けて、それを拾い上げてしまうため、対人不安の感情がどんどん膨らんでしまうのです。

選択的知覚の具体例

選択的知覚の心理は、自分自身だけでなく、他人に対する認識にも影響を与えます。

具体例①飲み会での孤立と選択的知覚

社交不安を抱えている方は、飲み会や食事会などの社交的な場面を苦手と感じる傾向があります。
過去に飲み会で孤立してしまった経験があると、その記憶が強く残り、「どうせまた孤立するに違いない」「周りの人たちに暗い人間だと思われるのではないか」といった否定的な思い込みが強化されてしまいます。その結果として、社交的な場に対する不安や恐怖がさらに大きくなっていくのです。

具体例②恋愛における選択的知覚
社交不安のある方の中にも、恋愛に関してはある程度うまくいっている方も少なくありません。

社交不安の基本的な心理傾向に「人の目を強く気にする」というのがあり、恋愛において、逆にプラスに働く面もあります。たとえば、相手の反応に敏感なために気遣いができたり、服装やマナーに気を配ったりする方が多く、実際に優しく思いやりのある人が多いのも特徴です。そのため、恋愛に対して強い緊張や不安を感じながらも、異性としっかり向き合おうとする姿勢を持っている方が多くいます。

ただし、心の奥底にはやはり強い不安があるため、関係がある程度進んでも、緊張や恐怖心のほうが勝ってしまい、最終的には関係がうまくいかなくなってしまうケースもあります。このような場合「一生懸命頑張ったのにダメだった」という体験が強く心に残り、「どうせ恋愛しても最後はうまくいかない」「デートしても会話が続かず苦しいだけだ」といったネガティブな思い込みが強まっていきます。その結果、恋愛に対して過度な不安や恐怖を感じるようになり、場合によっては異性との関わり自体が怖くなってしまうこともあるのです。

このように、社交不安を抱える方は、人間関係におけるネガティブな側面ばかりに注目してしまいやすく、その結果として不安がどんどん膨らんでしまうという傾向があります。

選択的知覚への対処法

ここでは選択的知覚から抜け出す3つのポイントをご紹介します。

①心のクセにまずは気づく

まず自分が今、ネガティブな面ばかりに目を向けてしまっていることに気づくことが選択的知覚を抜け出す第一歩です。

この「自分の状態に気づく」という力は、心理学では「メタ認知」と呼びます。「今、自分はネガティブな情報ばかりに目が向いてしまっているな」と立ち止まって意識することが変化の出発点になります。

②ポジティブ情報を確認してみる

どうしてもネガティブな面ばかりに目が向いてしまうときは、意識的にポジティブな側面がないかを探してみましょう。

おすすめなのは、「ネガティブなことを1つ見つけたら、ポジティブなことを2つ探す」という習慣です。紙に書き出して整理してみるのも効果的です。その上で、ポジティブとネガティブの両面を見比べ、自分にとって最も納得できる行動を選択していくことが大切です。

③適切な行動

ポジティブとネガティブの両面を見比べ、自分にとって最も納得できる行動を選択していくことが大切です。

たとえば、食事会に参加するかどうか迷っているなら、「良い面も悪い面もある」と冷静に比較したうえで判断しましょう。どちらを選んでもかまいません。大切なのは、感情だけに流されず、冷静に情報を見比べたうえで、自分で納得のいく選択をすることです。

事例を見てみよう

先ほどの選択的知覚の場面を見直してみましょう。

食事会の失敗と思い込み


過去の食事会で孤立した経験から「食事会=つらいもの」と思い込んでしまった女性のケースです。

①気がつく
まずは、「もしかしたら、自分は食事会に対してネガティブな面ばかりを見ているかもしれない」と一度立ち止まって考えてみましょう。

②ポジティブ情報の確認
次にポジティブな情報を集めてみましょう。60分の食事会のうち10分でも誰かと打ち解けていた時間があったかもしれません。また、職場での食事会はその後の人間関係や仕事のスムーズさに良い影響もありました。さらに、会社の経費で食事ができたなら、「無料で美味しいご飯を食べられてラッキー」と考えることもできます。

③最適な行動
食事会の良い面にも目を向け、冷静に比較をして判断をします。たとえば、「来月また食事会がある」とわかったとき、「今回は参加してみようかな」「やっぱり今回はやめておこうかな」と、自分の心の状態に合わせて選択すれば良いのです。

その選択に正解・不正解はありません。体調が悪かったり、社交不安の症状が強いときは、無理をせず回避する選択も立派な判断です。孤立した記憶だけにフォーカスをするのではなくメリットにも目を向け自分の気持ちに従って納得のいく選択をすることが大切です。

恋愛の失敗体験と思い込み

恋愛の失敗から「どうせ自分は最後にフラれる」「恋愛しても苦しいだけ」と思い込んでしまうケースです。

①気がつく
たしかに失恋はつらい経験ですがまずは、「もしかしたら、選択的にネガティブな記憶ばかりに目をむけているかもしれない」と一度立ち止まって考えてみましょう。

②ポジティブ情報の確認
次に過去の恋愛での楽しかった出来事も思い出してみましょう。たとえば「一緒に夏祭りに行って楽しかった」「相手と笑い合った時間があった」など、小さな幸せの記憶があるはずです。そして、「もし次に誰かとお付き合いできたら、一緒に登山に行けるかもしれない」「趣味を共有できるかもしれない」といった未来の楽しみを想像するのもおすすめです。ネガティブ1に対してポジティブ2くらいの比率でバランスを取って考えることを意識してみましょう。

③最適な行動
そして最終的に「行動するかどうか」を冷静に判断します。
ポジティブ・ネガティブ両面の情報を並べたうえで、自分にとって納得できる行動を選ぶことが大切です。

バランスをとるための視点を持つ

私たちの脳は、もともとひとつの視点に偏りやすい性質があります。特に、大切な場面や傷ついた記憶については、ネガティブな情報ばかりに目が向いてしまうことがよくあります。これは“脳のクセ”のようなもので、誰にでも起こる自然な反応です。

もし自分がネガティブな考えにとらわれているなと感じたときには、「きっとポジティブな面もあるはず」と信じて、意識的に探してみることが大切です。

そして、ポジティブな視点が見つかったら、これからどう行動するかを冷静に判断してみましょう。体調が悪いときや気分が落ち込んでいるときは、無理をせずに休むことも大切です。でも、「ちょっとなら挑戦できそうかも」と思えたときには、ぜひその一歩を踏み出してみてください。

次回のコラムに進む

今回は社交不安症の基礎編⑪を解説しました。今後は、社交不安症の詳しい診断基準や、よく見られる症状、さらには原因や解決策についても深掘りしていく予定です。「人が怖い」と感じたり、対人恐怖症の傾向があると感じている方には、ぜひこのシリーズを継続してご覧いただきたいと思います。様々な対策を身につけることで社交不安とうまく付き合う道筋を示しています。内容を繰り返し振り返り、自分のものにしていきましょう。

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