対人恐怖症が重症化し、引きこもりになった私は、自殺企図が出てきていました。そして「なぜ人は生きるのか?」ということに疑問を持ち、哲学の世界に没頭していました。
主な情報源は、近所の古本屋でした。この古本屋、すがすがしいほど閑古鳥が鳴いていて、いつ行っても客がいることはなく、売上が、0円の日もあったのではないでしょうか。私は1冊本を買って、熟読しつくと、また通うという生活をしていました。2日に1回は通っていたと思います。
この店主のすばらしいところは、私に一切、声をかけてこないところでした。閑古鳥が鳴いている店なのに、私は唯一熱狂的に通うファンです。普通であれば、もろ手を挙げて、接客をすべきところです。しかし、店主は眉毛一つ動かさす、ただ淡々と私への対応をし続けました。
店主のオヤジと非言語コミュニケーション
私は哲学のコーナーのお得意さまでした。ただでさえ、閑古鳥が鳴いている古本屋の、さらに閑古鳥が鳴いている、この世でもっとも栄えていないコーナーでした。本を手に取り、パラパラとめくるたびに埃が舞いました。
私は1冊本を買って、熟読しつくと、また通うという生活をしていました。なにせ無職でニートの時間は無限にあります。本を買っては、1日中その本を読みふけまました。気が付けば、1か月余りの間に30冊ぐらい、購入し続けました。
しかし、本が補充される気配は一向にありませんでした。しだいに本と本の間に隙間が目立つようになっていました。
そんなある日のことです。いつものように、哲学コーナーを物色していると、隙間が無くなっていることに気がつきました。そして、よく見ると、なぜか「般若心経」に関する本が補充されていたのです。
哲学はとても抽象的な分野です。これは哲学だ!と言ってしまえば哲学になってしまうようなところがあります。古本屋のオヤジはどうも、私に般若心経を哲学として読ませたがっているようでした。
言葉で言えばいいのに、店主はそれをせず、おすすめの本を介して私と非言語コミュニケーションをしたのです。私はひきこもりで誰ともやり取りがなかったので、他人が私のことを考えてくれたことをうれしく感じました。
そして私は、まんまとその術中にはまり、新入荷した、般若心経の書籍を数冊手に取り、レジにどさっと置きました。コミュ障でなければ、店主に真意を問いただすのですが、それはできませんでした。店主は、私に声をかけることはありません。それでも私たちの間には、何か得体のしれない連帯感がありました。
すべては変化していく
般若心経を手に取り、いざ原文を読んでみます。しかし、私はあぜんとしました。
はい・・・。まったく意味が分かりません。平時であればさっさと放り投げてしまっていたでしょう。しかし、私は引きこもりという「精神と時の部屋」にいる人間です。解読する時間は十分ありました。
私は、解説書を片手に、古文書を解読するかのことく、一字一句読んでいきました。そしてかなりの時間がかかりましたが、段々と意味がわかってきました。ブッタは以下のようなことが言いたかったのだと、私なりに解釈しました。
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世の中にあるものは全て移ろいでいく。だから、あなたが今感じている苦しみも絶えず続くわけではない。
雲の流れや季節の変化と同じように、苦しみは過ぎていくだろう。春があれば夏もある。晴れることがあれば曇ることもある。
つらい時期があれば、それが過ぎ去り軽くなる時期もあるだろう。今ある状況や考え方はいずれ変わっていく。だから、まあ大きく構えなさい。
現状への不満を口にして悲観に暮れるより、目の前にある正しいと思うことを1つ1つ丁寧に行いなさい。
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私は引きこもりを体験すると、社会に出るのは本当に難しいことだと感じていました。なにせ履歴書にぽっかりと穴が空いているわけです。さらに当時は就職難でした。一度社会のレールからはみ出ると、永遠に元に戻れない。そんな風に考えていました。
しかし、ブッタに言わせれば、世の中はどんどん変わって行くのです。 私のこのクソみたいな状況も何か行動してさえいれば、変わって行くかもしれない。と考えるようになりました。私はブッタから、世の中の儚さを学ぶとともに、変化することへの勇気をもらいました。
なぜ生きてるのか?という結論が出る
私はこのように、ソクラテス、デカルト、ニーチェ、般若心経、…などの哲学書を手に取りながら、
人生に意味はあるのか?
人はなぜ生きるのか?
人生とはなにか?
という疑問に対しての答えを探し続けました。誰からも干渉されず、好きな時間に、好きなだけ生について考えました。今思えば最高に贅沢な時間でした。そして私は、ようやく「生きるとは何か」についての答えを出すことになるのです。
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・川島達史 1981年生まれ
・社交不安症専門カウンセラー
・公認心理師 精神保健福祉士
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