引きこもりから起業ニートになった私は、コミュニケーション講座を開講することにしました。しかし、生徒さんが1人も集まらず、資金が枯渇してしまいました。
いよいよ借金をする決意を固めたその時、「コミュニケーション能力」という検索ワードで1位を獲得したのです。
裏付けのない不安
コミュニケーション能力で1位を取ってからアクセス数は900アクセスまで伸びていきました。1日900人が見に来てくれているなんて・・・にわかに信じられません。しかし分析ソフトはその事実を冷静に刻んでいました。
ただし、この僥倖的状況は砂上の楼閣でしかありません。何しろ、どうして1位になったのか?全く理解できていないのです。根拠がない・・・ということは、いつ楼閣が崩壊するかわからないのです。
アクセス数は明日にはまた元通りになってしまうかもしれません。そうすれば、暗雲立ち込める日々、人生の停滞の日々に戻ることを意味します。
借金生活になり、何十年も浮上できないかもしれない・・・そんな恐怖がジワリと背中に覆いかぶさってきます。
私は自分ではコントロールできない運命の元にあることを理解していました。
1週間引き合いなし
検索順位は、多少の変動はあったものの、幸運にもその後、1週間ずっと上位表示されていました。しかし、肝心のメールは全く来ません。
にわかに、アクセス数が正しいのか?疑心暗鬼になってきます。所詮ホームページを作成して3か月のド素人です。何か設定が間違っていて、たまたま900という表記になっているのかもしれません。
もしかしたら私のPCだけ1位なのか?と疑いたくなってきます。
受信メールはありません
の表記を見るたび、
社会から拒絶されたような気持になってきます。
鏡を見ると、 髭は伸び放題です。
髪は残バラ、姿勢が悪く、猫背になっています。
睡眠不足で、目が腫れていました。
痩せてしまったせいか、
顔から生気が失せていました。
アクセス数が増えても
引き合いがない・・・
もしかしたら
僕がやろうとしていることは
そもそも間違っていたのか・・・
そんな暗澹とした気持ちになってきます。
10年間の出口
この頃になると、狂ったように受信メールをチェックしていました。30分ごとメールフォルダをクリックしている自分がいました。 精神衛生上よろしくなかったのですが、自分を止めることができませんでした。
何度クリックしても・・・
もう見飽きた文言が並んでいます・・・
次こそは、次こそは・・・
と念じながらクリックを続けました。
そうして10月の10日あたりだったでしょうか。いつものように不毛で、自虐的なクリックを続けていると、不意にいつもとは違う、決定的な文言が目に入ってきたのです。
「新着メッセージがあります」
その文字を見た瞬間、
身体がビクッと反応しました!!
・・・
・・・
もしかして・・・
たのむ・・・
・・・
・・・
そう念じながら
私は受信メールを開きました。
「コミュニケーションで悩んでいます。
受講できますか?」
それはたった2行のメールでした。
簡素なメールでした。
ですが、それは紛れもなく
確かに
確かに
「講座を受講したい」
というはじめてのメールだったのです。
その瞬間、私は喜びというより、
放心状態になっていました。
様々な出来事が脳裏をよぎりました。
思えば私は16歳の頃に起業を決意して、もう10年近くが過ぎ去っていました。結果は出なかったですが私はただの1日も休むことなく、「コミュニケーション講座」という試みにチャレンジを続けました。
一度しかない人生、自分の使命はコミュニケーションで悩む人のために尽くす・・・。
1年よく耐えた・・・
諦めず続けて良かった・・・
やっと結果が出た・・・
放心状態で画面をみていました・・・
色々な感情が頭を駆け巡り
錯綜していました・・・
もはやうれしいのだか、安心したのだか、プレッシャーなのか、幸福なのか、不安なのかわけがわからなくなっていました。ただ今までに味わったことのない感覚がありました。
私は画面を見ながらじっとその2行のメールを見つめていました。いとおしく、画面をなでなでしている自分がいました。
応募してくれた〇〇さん・・・おれ頑張るわ・・・
とつぶやいていました。
父親への報告
そして、私は不意にこの事実を報告したい衝動にかられました。それは、ここ1年迷惑を掛けっぱなしの寡黙な父親でした。
私は学生時代、父親の財布から何度も1万円を盗み、麻雀にハマったバカ息子でした。
東大に入学した兄貴に比べ、私はただ実家に寄生するだけの、モラトリアム人間でした。その罪を抱えながらずっと自分のやりたいことをやらせてもらっていたのです。
家族も一緒に我慢して耐えてくれたのです。
私は気が付くと2階の書斎にいる、
父親の部屋をノックしていました。
「お父さん。今日はじめての申し込みがあったよ!」
と告げました。
いつも寡黙な父親はいつもどおり
「そうか・・・良かったな・・・」
と呟きました。
ただその声色はいつもよりも
明るいことだけは確かでした。
私は、それだけを告げ、
再びドタドタと階段を登り
屋根裏部屋のPCの前に座りました。
さあ・・・
やっとスタートラインに立てた・・・
これからが本当の勝負だ。
今度は不思議なプレッシャーが湧いてきました。
本当に僕は
「コミュニケーションで悩む人が納得してくれる講座」
を開くことができるのだろうか・・・
そこには生々しい新たな命題が生まれていました。
起業ニート編 おわり
************************当時の回想
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。いやあ長くなってしまった!!正直、人生でも相当辛い時期だったので、書きながら苦しかったです。ですが、初心に帰ったつもりで、書き続けました。
当時の状況を振り返ると、やはり私は運が良かったと思います。人口知能の精度がまだ粗く、リンクを片っ端から貼って、少し特殊な技術を使うと、一気に上位表示が可能だったのです。今では考えられません。
2006年ぐらいはまだWEBに対してそこまで気合を入れている講座はなく、私は若いこともあり、新しい広告手段にチャレンジできたことが良かったのかと考えています。時代が味方をしてくれたと感じています。
まあそれにしても・・・首の皮1枚つながってどうにかスタートしたんだな~と今でもヒヤヒヤしますね。。 今でこそ冷静に書くことができますが、もう2度と味わいたくありません。
次回のシリーズは
対人恐怖症克服記190 あがり症編1 「9000円の入金に震える」
となります。またきてくださいね♪
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・川島達史 1981年生まれ
・公認心理師 精神保健福祉士 心理学大学院修了
・社交不安症専門カウンセラー
・ご相談はこちらからお待ちしています
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