対人恐怖症に8年苦しみ、引きこもりになった私は、心理療法の力を借りて、無職からフリーターになることができました。
仕事内容は、保険の電話勧誘でした。視線恐怖症を持っていた私でも、電話越しのコミュニケーションなので、どうにかなりました。
困ったのは休憩時間でした。同僚に囲まれて、会話の輪に加わろうとしても、どうやって会話をすればいいのか見当もつきません。
孤立すればするほど、孤独感が襲ってきて、「人と関わりたい!」「会話をしたい!」という欲求がふくらんでいきました。
結局何をはなせば良いのか
私は、「豊かな人間関係を築く」という人生の目標を思い出しました。その目標はとても高いものでしたが、もうこのくそったれな人生にけりをつけなくてはなりません。
目標を立てた私はバイトが終わると、会話のヒントを得るべく、新宿の紀伊国屋書店に入り浸るようになりました。

会話に関する本は、一般書籍や心理学のコーナーに置いてありました。
「会話」というフレーズが入っている本があれば、なけなしのバイト代で片っ端から購入していきました。本を読むと様々な指南が書いてあります。
食べ物の話題が良い
旅行の話題が良い
会話は相手の話を引き出そう
起承転結をつけよう
それなりに納得のいく内容も確かに書かれています。毎日1時間、雑談を練習できる機会があるのは、この仕事のメリットでした。
私は、なるほど!これはいけるかも!と感じたものを、休憩室の雑談時間で試していきました。
しかし、どうにもうまくいきません。例えば、食事の話題で話そうとします。
私
「あ、あ、あ、あの・・・〇〇さん、好きな食べ物はありますか」
マダム
「え、なにそれ笑 好きな食べ物?う~ん、パスタかなあ」
私
「そ、そうですか・・・」
マダム
「・・・沈黙 (え?もう終わり?何?この会話・・・)」
こんな形で終わってしまいます。
私に話しかけられたマダムも、私の真意が読み取れず、困惑しているのが伝わってきました。気まずい沈黙のなかで、結局何を話せばいいのか?わからず混乱していきました。
コミュ障の作者を探すも
その後も、本を読んでは、休憩室で試すという、日々が続きましたが、成長している実感を持つことができませんでした。結局のところ、
会話の切り出し方
相手の発言への具体的な返し方
具体的にどう質問をすればいいのか?
そのやり方を詳細に書かれた本がないという結論に達しました。
よく見ると、出版されている本の著者のほとんどは、「カリスマ営業マン」「カリスマキャバ嬢」「カリスマ元CA」といった「カリスマ」が書いた本ばかりでした。
例えるなら、プロ野球選手が、高校野球児に、野球のやり方を教えるような構造になっていたのです。私が求めているのは、少年野球レベルの指南書でした。
私は、対人恐怖症レベルです。もっともっともっと、初歩的な、基本的で現実的な会話のやり方を知りたかったのです。
紀伊国屋だけでなく、ジュンク堂、神保町の本屋街にも、足を延ばしましたが、こにも、「あいうえお」レベルの入門書はありませんでした。
おそらくですが、対人恐怖症レベルの人は世の中にそう多くはなく、きっと出版をしても売れないので、市場から見捨てられた存在だったのだと思います。
研究がないことへの絶望
実用本に限界を感じた私は、心理学や対人恐怖に関する医学論文なども調べてみました。きっと学術的な世界では、対人恐怖の治療に役立つ会話のトレーニングがあると推測したのです。
しかし、私が調べた限り、会話の原理を解明し、トレーニングを体系立て研究している学者はただの1人もいなかったのです。
ただの一人もです!!
信じられませんでした。対人恐怖症は、社交不安障害という病名がついているのに、治療に役立つ会話のトレーニング法を考えた人がいないなんて!対人恐怖を克服するためのトレーニング法があればいくらでもするつもりでした。
しかし、そもそもどう努力すれば良いのかわからないのです。私は、現実的な治療法がないことに愕然として、途方に暮れてしまいました。
そして、この悩みがまさか自分の未来の仕事につながるとは、この時は想像すらしていませんでした。
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・川島達史 1981年生まれ
・社交不安症専門カウンセラー
・公認心理師 精神保健福祉士
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