対人恐怖に片足を突っ込んでいた私は、奇跡的に女子高生から連絡先が書かれた手紙をもらいました。そして吉祥寺ではじめて会うことになったのです。
できる限りの薄着
待ち合わせの場所は屋外でした。これは私からのリクエストでした。なぜなら冬の屋外なら顔が赤くなることを抑えることができるからです。
待ち合わせ時間までは30分ぐらいありました。赤面を抑えるため、インナーは着ませんでした。白いワイシャツを直に着て、セーターも脱いで、その上に学ランを羽織りました。
寒空のもと、できる限り顔が白くなるように、吉祥寺の町を歩きました。冷たい風が通る場所に我が身を置いて、できる限り体を冷やそうと努力しました。
そしてついに時間になりました。ポケベルで待ち合わせた場所に歩を進めます。心臓が鼓動を打っているのがわかります。体中が不安で満たされていきました。
不愛想な挨拶
待ち合わせ場所につくと、白梅学園の見慣れた制服の女の子がやってくるのがわかりました。
女の子が1メートルの距離に来ました。手紙を渡してくれた時の印象通り、かわいらしい女の子でした。
私は精一杯の力で
「こ・・・こんにちは」
と声をかけました。
「こんにちは~。どうしよう・・・」
と年上の女の子も緊張しているようでした。
抑え込んでいた緊張が止まらなくなってきました。
あんなに訓練をしたのに顔が真っ赤になってきました
身体を必死で冷やしたのに汗がダラダラと出てきました
こんな顔を見られてはいけない!
動揺しているのは恥ずかしいことだ!
これが初めてのデートと悟られてはいけない!
私は「いけない」という制約をどんどん自分に課していきました。
すっかり好きになる
立ち話をすると、動揺しているのがばれると思った私は、挨拶もそこそこに、井之頭公園を歩くことを提案しました。
高校一年生の私はデートというもののやり方が皆目見当もつきませんでした。ただただ、吉祥寺の町や井之頭公園を歩き続けました。
アスカさんは永作博美に似ていて、ニコニコとした女の子でした。そのような女の子が私という人間と時間を共有し、一緒に歩いてくれることがうれしくて仕方がありませんでした。
私は、ものの3分ですっかりアスカさんの虜になっていました。一体どうして女子の声や形はこんなにも、かわいらしいのだろうか。女子と言う生物のすばらしさを実感していました。
好きであるほと無表情
しかし、好きと不安は表裏一体です。アスカさんを好きになるほど、嫌われてはならないという気持ちが膨らんでいきました
嫌われないためには
顔が赤くなってはならない
笑顔になって
不細工と思われてはいけない
私は一緒に歩いている間、その2点に集中しきっていました。
会話をはずませるために使うべき脳の容量が残っていませんでした。アスカさんが気を使って質問を投げかけてくれても、まともに答えることができません。
アスカさん
「学校楽しい?」
私
「うん…まあまあ…」
(顔が赤くなっていないだろうか)
アスカさん
「お昼ご飯は学食?」
私は
「たまに学食…」
(不細工な笑顔になっていないだろうか)
こんな単調な会話が続きます。
寒空のもと、私とアスカさんは目的なく歩くだけになっていました。
30分ほど目的のない徒歩が続くと、アスカさんの口数がすくなくなっていきました。
そんなアスカさんの心情の変化を感じつつも、私は自分の表情に気を取られ続けていました。アスカさんを喜ばせようとか、会話を弾ませようとか、そういった気持ちが一切なかったのです。
*********
・川島達史 1981年生まれ
・社交不安症専門カウンセラー
・公認心理師 精神保健福祉士
・対人恐怖のご相談はこちら
・社交不安症チャンネルはこちら
*********