私は高校1年生の頃に女子高生のアスカさんから手紙を渡され、人生で初めてのデートに行くことになりました。
それは奇跡であると同時に試練でもありました。なぜなら対人恐怖症という病に罹っていたからです。
季節は冬でした。デートの場所は井之頭公園です。
整った顔をキープ
私は、デートの最中、
赤面してはいけない・・・
表情を崩してはいけない・・・
不細工な笑顔を見られてはいけない・・・
という事ばかりを考えていました。私は「整った顔」をキープし続けました。それはすごく疲れる作業でした。
彼女と会ってから1時間近く、井之頭公園を歩きました。一度もベンチに座りませんでした。
ひとりになりたい
かっこよくみられることに集中し続け、普段の自分とかけ離れた自分でふる舞い続けると、神経が摩耗し、キリキリとした感覚が出てきました。
ひとりになりたい・・・・
気がつくとそう感じていました。あれだけ憧れた女子とのデートなのに、かわいい女子と並んで歩いているのに、一緒にいたいけど、これ以上一緒にいると緊張でどうにかなってしまいそうでした。
ひとりになりたい・・・
ひとりになりたい・・・
ひとりになりたい・・・
心のなかで呟きはじめました。
疑心暗鬼
最初は質問をたくさんしてくれていた女の子も、だんだんと口数が少なくなってきました。かわいらしい笑顔が減っていました。ただ二人の足音だけが聞こえます。
がっかりされたのではないだろうか?
嫌われたのではないだろうか?
つまらない男と感じたのではないか?
疑心暗鬼になっていきました。一刻も早くこの苦しい時間から解放されたいと感じました。
今日「は」これで
私は、アスカさんに何もつけず、出口に向かい、井之頭公園を出ました。アスカさんも何も言いませんでした。2人は無言で駅に向かって歩き始めました。はたから見ると、初々しいカップルだったかもしれません。
しかし、私の心は苦痛で満ちていました。一刻も早くこの緊張から解放されたい思いでいっぱいでした。
駅につきました。アスカさんの顔を見ると相変わらずかわいい顔をしています。
ですがそのかわいさが、同時に緊張を高め、顔を硬直させました。
「それじゃあ今日はこれで」
と彼女に告げました。今日「は」の「は」に精一杯の気持を込めたつもりでした。
私はアスカさんに好意をもっていました。しかしそれを表現する術がありません。私はこの「は」という一文字に、また会いたいという想いを込めたのです。
女の子はハニカンだ笑顔で
「うん。また」
と返してくれました。それは最初に会った時の笑顔と同じ笑顔でした。
「さようなら。またね。」
「うん。また。」
私たちはわかれると、それぞれの帰路へ向かいました。
これでさようならになるのか?
また会えるのか?
私は不安な気持ちでいっぱいになりました。
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・川島達史 1981年生まれ
・社交不安症専門カウンセラー
・公認心理師 精神保健福祉士
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