男子校に通い女子と一切話せない地獄モードの私にも、ついにチャンスが巡ってきました。
それは他校に通う女子との4対4のボーリング大会をチャラ男が企画し、私を誘ってくれたのです。
待ちに待ったその日がやってきました。私は偽物のB-BOYとなり、勝負の場に向かいました。
鏡で自分を見る
集合は朝の10時でしたが、9時30分に到着し、落ち着きなくうろうろしました。
途中、鏡を見ると、野球部上がりの短い髪に、ブランド名が中央に書かれ、さらには全くサイズが合わないブカブカのTシャツを着た男が映っています。
ファッションというものを理解していない中学生にも、この服装がイケていないことは明らかでした。一世一代のハレの日になぜかような服を着てきてしまったのか・・・。この服装を着せて、世に送り出した兄を恨みました。
時間が近づくと徐々に男友達が集まってきました。彼らは「男子校」と言う、この世で最も苦しいと言われる修行に耐えてきた戦友です。彼らの顔を見ると、ほっと安心する感覚を覚えました。しかし、その安心感はすぐに消えてなくなりました。
と言うのも彼らはそろいもそろって病的な表情をしているのです。目の瞳孔が開きっぱなしで、簡単な会話すら成立しない状況でした。彼らもまた、女子と話すことへの「淡い期待」と「恥をかくのではないか」という絶望のはざまにいたのです。
御光臨
そんな窒息しそうな時間が10分近くたつと、ついにその時は来ました。向こうから、女子4人組がこちらに歩いてきたのです。
早朝の暖かい光をバックにした彼女らは、神々しく、女神のようでした。
女の子達は私たちの方にきて、目を配ってくれます。こんなに近い距離で女子と正対するのは三年ぶりでした。
年頃の女子を真近で見るとなんというかわいい生き物なのか!!!
キラキラと輝く瞳、よく動く表情 カラフルな服装、丸みを帯びたフォルム
思春期の純朴な私は、目を奪われました。
からだの異変
同時に私は体の異変を感じました。
顔がみるみる真っ赤になっていきます。
顔から汗が噴き出してきました。
身体全体が硬直し、自分の体でないような感覚も出てきました。
心も暴走をはじめていきます。
ファッションがおかしくないか?
短髪のいけてない服装は受け入れられるのか?
キョドっているのがバレているのではないか?
気が気ではありません。
声がでない
この時、敵とどうにか戦える唯一の戦士である、チャラ男が仕掛けました。
「おう!よろしく!」
女子たちも微笑みます
「よろしく~」
私もどうにか答えようとします。しかし、声がうまくでません。
「・・・(よ)・・・(よろしく)・・・」
はにかみを返すのが精いっぱいでした。
女子とは話したい…だけど体がおかしい…声がでない…顔が赤くなる。1分もしないうちに帰りたくなってきました。
原体験の場へ
しかし、そういうわけにもいきません。8人の男女の集団はボーリング場へと向かいました。
駅から10分ぐらいの距離でしたが、男子グループと女子グループに分かれていました。
なぜか女子グループが先を歩き、男子グループはあとからついていきました。私たちは心理的に格下になっていました。
会場につくと、いよいよボーリング大会がはじまりました。
そのおよそ2時間後…
10年続く対人恐怖の原体験をすることになるとは、この時はまだ知る由もなかったのです。
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・川島達史 1981年生まれ
・社交不安症専門カウンセラー
・公認心理師 精神保健福祉士
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