大学に入学したものの、私は対人恐怖症、学歴コンプレックス、ギャンブル依存を患い、鬱屈とした大学生活を過ごしていました。その後、人生を変えるべく、彼女の橋本さんと一緒に会計士を目指すことにしました。
ギラつく受験生
会計士受験はかなり特殊な勉強をしなくてはならず、独学で合格するのはほぼ不可能な試験です。当時の会計士受験生はTACか、LECか、大原に通うのがデフォルトでした。
私が通ったのはTACでした。当時は伸び盛りの専門学校で、とても活気がありました。幸運にもTACの専門学校は水道橋にあり、大学からは5分で行ける距離にありました。これは他の大学生に比べてアドバンテージでした。
TACの本校は独特な雰囲気で、東大、一橋、早稲田、慶応、など名だたる大学の人が都内から集まってきていました。入ったばかりでギラギラしている若者もいれば、8年間会計士浪人をしていてゾンビ化している人もいました。
独特な自習室
会計士受験生は、家で勉強する派と、自習室で勉強する派がいました。私たちはモチベーションをもらうため自習室で勉強しました。自習室は全員電卓を片手に勉強していて、カタカタと小気味の良い音が鳴っていました。大きな自習室ですと200人ぐらい入ります。その自習室で全員が電卓を打っているは本当に独特な空間でした。
電卓を打つスタイルにも様々なタイプがいました。静かに丁寧に打つ人もいれば、ベートーベンの運命を引いているかの如く、ダイナミックにたたく人もいます。各々の独特のたたき方が全体で調和し、入った瞬間から、異世界がひろがっていました。
テコでも動かない彼女
いざ、自習室で勉強をはじめた私ですが、長時間集中して勉強することが極端に苦手でした。なんせ大学受験では、15分とて集中できなかった人間です。いざ勉強を始めても、すぐに嫌になってきて、席を立ってしまいます。
一方で、橋本さんは一度机に向かうと、アロンアルファで椅子にくっついているのかと疑うぐらい、全く動かないのです。彼女はおそらく日大生7万人の中で最も意志が強い女性でした。
例えば14時に勉強をはじめ、1時間経つと
「もう帰らない?」
と私がギブアップします。
すると
「もっと勉強していく」
と彼女が主張します。さすがに先に帰るのは男が廃ります。仕方がないのでいやいや勉強をします。2時間ぐらい勉強すると再び彼女に
「そろそろ帰ろうよ」
と打診をします。
すると彼女は
「先帰っていいよ。私はもう少し勉強していく」
と主張するのです。こんなやりとりが初日から何度も続きました。
1週間ぐらい経つと、段々と私も勉強の習慣がついていきました。彼女の持続性に感化され、6時間ぐらいは勉強できるようになっていました。生まれて初めて、昼の14時から休憩時間を入れて夜の21時まで勉強ができたのです。私にとって初めての体験で、少なからず自信を持つことができました。
はじめての10時間勉強
3か月ぐらいたつと勉強時間はさらに伸びていきました。まだ日が昇らない5時半に起床をして、各駅停車で勉強しながら専門学校へ行きます。専門学校は7時から空くので一番乗りに自習室に入ります。そして夜の九時まで自習室にこもりました。1日10時間勉強する日も珍しくなくなってきました。
去年まで麻雀に狂って、廃人のような生活だったのが一変していきました。私は人生ではじめて集中して勉強する習慣を身につけることができたのです。そして、私のこのような能力を引き出してくれたのは間違いなく橋本さんのお陰でした。努力家の彼女に今でも心底感謝しています。
会計士受験の弊害
勉強に全振りする生活をすると、当然人との交流が減っていきます。橋本さんとも、帰りの電車でわずかに話すだけの日もあり、1日話す言葉が100文字以下の日も出てきました。
会計士受験で経営に必要は知識を得る一方で、対人恐怖症の症状は悪化し、ますます深刻な心の状態になっていきました。ですがその心の悪化については自分でも全く気が付いていませんでした。
対人恐怖の悪化という電車はどこまでも進行していくのでした。
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・川島達史 1981年生まれ
・社交不安症専門カウンセラー
・公認心理師 精神保健福祉士
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