引きこもりから喫茶店のバイトを始めた私ですが、極度に人が怖くなり、出勤することを拒否してしまいました。
当然のように店長から電話がかかってきました。そして私は、絞り出すようにはじめて対人恐怖症であることを告げました。
すると店長自身も「昔いじめにあっていた」と泣きながら告白してくれたのです(前回のブログ)。
店長がすすり泣きながら、電話を切ると、私は呆然と立ち尽くしました。あまりにも意外な言葉だったので、頭の整理が追いきません。
自身の対人恐怖、当日出社拒否をした自責の念、店長の突然のカミングアウト、これらの感情が混ざり合い濁流のようになっていました。私はこれまでの出来事の辻褄合わせをはじめました。
冷たい態度の理由
それまでの店長の印象はとても冷たい人でした。面接のときも、働いているときも暖かい言葉はありませんでした。
いつも従業員に対していつも壁を作っていました。従業員の中には(店長苦手なんだよね・・・)と耳打ちしてくる人もいました。
私は、店長が冷たいのは、「店長としての立場」がそうさせているのだと考えていました。
新宿の激戦区で、経験が不足しているアルバイトを使いこなすのはとても大変です。甘い顔をしてはいけない。だから冷たい態度をとっているのだと考えていました。
しかし、今思い返すと、店長は私と全く同じような、コミュニケーションになっていたことに気が付きました。
笑顔がない、自己開示をしない、温かい会話のやりとりがない、他者に否定的である、そこには対人恐怖になっている人の特徴がはっきりと表れていました。
本質的な理由は、過去のいじめが大きな原因だったのかもしれません。もしかしたら彼女は私と同じで、楽しそうにするバイトの学生たちを見て、孤独感を抱えていたのかもしれません。
女性を泣かせる情けなさ
私は必死に頭の中を整理し、自分の中に渦巻くモヤモヤの正体を探りました。そしてようやくたどり着いたのが、「店長は本当は繊細で、傷つきやすい女性だったのではないか」という気づきでした。
あの冷たく見えた態度も、自分を守るための鎧だったのかもしれない――そう思うようになっていきました。
私はそれまで、自分のことでいっぱいいっぱいでした。周囲からどう見られているか、嫌われないようにどう振る舞うか、そんなことばかり気にして、防衛的に人と接していたのです。
だからこそ、同じような弱さを抱えた存在が、こんなにも近くにいたなんて想像すらできなかったのです。
店長を泣かせてしまった・・・いや、一人の対人恐怖で苦しむ女性を泣かせてしまった・・・いじめで苦しむ過去を持つ女性を泣かせてしまった・・・その事実は、私の胸にずっしりとのしかかりました。
もし私がもう少し早く、彼女の心の奥にある不安や寂しさに気づけていれば。あの「冷たさ」は、強さではなく、恐れの裏返しだったと気づけていれば――少しでもあたたかく接することで、彼女の心をやわらげる一歩になれたかもしれない。
自分のことさえうまく扱えない私ですが、それでも気づけば、私は店長のことがとても心配になっていました。
暗い人、冷たい人を見る目
この出来事以降、私は人との関わり方に少しずつ変化を感じるようになりました。
以前の私は、暗い態度の人や、冷たく接してくる人、時に攻撃的に見える人に対して、「関わるのが怖い」「近づきたくない」と感じてしまうタイプでした。
でも今では、それはその人の本当の姿ではないのかもしれない、と思えるようになったのです。
もしかしたら、彼ら・彼女らは人と関わることに強い不安を抱いているのかもしれません。
人に心を開いたことで深く傷ついた経験があり、それ以来、無意識に壁をつくってしまっているのかもしれない。
明るく振る舞うのが得意じゃないだけで、本当は誰かとつながりたいと願っているのかもしれない――そんなふうに、見えない背景に思いを馳せるようになりました。
表面的な態度や印象だけで人を判断するのは、とても浅い理解だったと、今では感じています。人の本質は、静かに、奥深くに隠れていることが多いのだと、自分の経験を通して学ぶことができました。
寄り添える存在になりたい
そして、私の心の中には、ある思いが静かに芽生え始めました。
誰にも気づかれず、孤独や傷を抱えている人の力になりたい。あのときの店長のように、言葉にできない想いを胸にしまい込んでいる人のそばに、少しでも寄り添えるような存在になりたい。
そんな想いが、私の心の中にある土壌に、種として入り込んできました。
それはまだ小さな種でした。私はまだまだ自己の対人恐怖すら克服できていなかったのですから。しかしその想いが開花し、いつの間にか生涯の仕事になるとは、この時は予想すらしていませんでした。
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・川島達史 1981年生まれ
・社交不安症専門カウンセラー
・公認心理師 精神保健福祉士
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